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外科医はどこへ向かうのか

2026年7月13日

私が大学の医局に入った頃、外科医の修練はまず「アッペ・ヘモ・ヘルニア」から始まると言われていました。


虫垂炎、鼠径ヘルニア、痔の手術を経験しながら外科医としての腕を磨き、その先の大きな手術へと進んでいく。
ある程度、段階的な道筋が決まっていた時代でした。


若い外科医たちは「次はマーゲン(胃)だ」「PD(膵頭十二指腸切除術)だ」と目標を掲げ、日々鍛錬していました。
少し時間があれば、缶コーヒーのプルタブや病院の柱、コードなどに糸を引っ掛けて結紮(糸結び)の練習をしたものでした。(笑)

幸いにも私は外科医不足の時代に働くことができたため、比較的早い段階から多くの手術を経験する機会に恵まれました。
大腸、胃、そして膵臓へと、次々にチャンスが巡ってきたことは、今振り返ると非常に幸運だったと思います。

しかし、その流れを大きく変えたのが腹腔鏡手術の登場でありました。

胆嚢摘出術が開腹手術から腹腔鏡手術へと移行し始めた頃、私たちは「Lap胆」「Lapコレ」と呼びながら症例を積み重ねていきました。
さらにヘルニアは腹腔鏡下ヘルニア修復術(TAPP)が普及し、虫垂炎も「Lapアッペ」や「インターバル・アッペンデクトミー」が標準的な治療となっていきました。

かつて外科医の登竜門であった「アッペ・ヘモ・ヘルニア」は、その姿を大きく変えていったとも感じております。

当初は「開腹手術を腹腔鏡で行う時代」と言われていました。

しかし現在では、視野の良さや低侵襲性といった点で腹腔鏡手術が開腹手術を上回るとされ、多くの領域でスタンダードとなってきています。

もっとも、三次元の空間を二次元のモニター画像で把握することは決して容易ではありません。
特に私たちファミコン世代にとっては、なかなか苦労する感覚であります。


その一方で、Switchやプレイステーションに親しんだ若い世代は、三次元を二次元で認識することに長けているように感じます。
むしろ彼らの方が自然に適応しているのかもしれません。

開腹手術から始まった私の外科医人生も、途中から腹腔鏡手術へと大きく舵を切りました。

そしてようやく腹腔鏡下で胃や大腸の手術を行うようになった頃、今度はロボット手術が登場したという流れです。

当初はセッティングの煩雑さや鉗子同士の干渉などが課題として挙げられていました。
しかし現在では急速に普及し、腹腔鏡手術に代わる新たなスタンダードになりつつあります。


先日、ロボット手術の勉強会で興味深い話を聞きました。

癒着や出血のコントロールが困難な場合、腹腔鏡手術から開腹手術へコンバージョンすることは少なくありません。

ではロボット手術から腹腔鏡手術、あるいは開腹手術へコンバージョンすることはありますか――。

その問いに対する答えは、「ロボットは可動域や視野が優れているため、コンバージョンに至ることはほとんどない」というものでした。


かつて外科医の根底にあった「困ったら開ける」という考え方は、すでに過去のものになりつつあるのかもしれません。

私が医学生だった20年以上前に見ていた外科手術と、現在の外科手術は、もはや別物と言ってよいほど姿を変えていると思います。

それでも私は、「外科道」と呼ぶべきものは残り続けてほしいと思っています。

外科の本質は、やはり手術であり解剖であると思います。


確かな解剖学的知識。
どんな場面でも冷静さを失わない精神力。
そして手術中に感情を乱さない平常心。

さらに術前準備、術後管理、外来フォローまで含めて、患者さんが元気になるために責任を持つこと。


そうした姿勢こそが、時代が変わっても外科医に求められる本質ではないでしょうか。

これからロボット手術はさらに進化し、遠隔手術や自動手術、あるいはAIを活用した手術へと発展していくのかもしれません。

私は、開腹手術全盛期を経験した一人の外科医として、「困ったら開ける」という言葉を胸の奥にしまいながら、これからの外科医療の行く末を見守っていきたいと思っています。